学校を卒業し、新卒者として入社した企業において、職務遂行能力(職能)を培い、職務遂行能力の伸長に応じて、賃金も上昇していく「伝統的」日本的雇用管理も、企業の人事戦略の見直しや、働く人の仕事や報酬に対する意識の変化などの影響を受け、失われつつあると言われる。
社会人として初めて入社した企業を退職し、新たな企業に転職、新たな仕事の経験を積み、また次なる企業に転職を繰り返しながら、キャリアアップしていく企業横断的なキャリア形成が「一般化」されつつある。
企業横断的なキャリア形成に不可欠な転職と就職について、厚生労働省の調査によれば、転職を行った人の約5割が「現在」の会社について「満足」していると答えている。
特に転職先に「満足」している点は、転職者の約7割が「仕事内容・職種」と回答している。
一方で、他の項目と比較して転職先に対する「満足度」が低かったのが「賃金」であった(「満足」と回答したのは46.6%)。
複数の企業において様々な職務経験を通じてキャリアアップを目指す働き方を選択する際、得たい収入=「賃金」のことは避けては通れない。
どのような業種に転職するか、どのような仕事、ポスト、経験年数をもって転職するか、様々な要因が組み合わさり「報酬相場」が決められていく。
現在の得られる賃金の「相場」について、一般社団法人人材サービス産業協議会が毎年調査し公表している「転職賃金相場」から、望む生活と得たい収入の「相場」について考えてみたい。
この調査における「相場賃金」の算出方法は、2020年4月~8月の間で、首都圏・東海・近畿エリアの求人情報における職種ごとの①募集時最低年収の中央値、と②募集時最高年収の上位15%位を各社から集約し、その最低値~最高値までの範囲を統計処理している。
首都圏における「飲食店の店長・店長候補」の職種に対する「賃金相場」は、最高年収上位15%値に入る募集年収は750万~371万の範囲。一方、最低年収中央値に入る募集年収は350万~250万であった。
定性的な決定者・決定求人内容の特徴を見ると、20代~30代前半で数店舗展開の店長職では400万~599万が「相場」となっている。
また「介護(施設・訪問)」の職種に対する「賃金相場」は、最高年収上位15%値に入る募集年収は500万~336万の範囲であり、一方で最低年収中央値に入る募集年収は317万~250万であった。
さらに、職種別の「賃金相場」では、「地方企業の管理職」に対する相場は、最高年収上位15%値に入る募集年収は1,200万~700万の範囲。一方、最低年収中央値に入る募集年収は560万~300万であった。
定性的な決定者・決定求人内容の特徴を見ると、中堅企業の経理課長などの管理職候補は20代後半~30代が中心で、相場賃金は300~399万となっている。
「IT(Web/アプリケーション)」の職種に対する相場は、最高年収上位15%値に入る募集年収は1,300万~850万の範囲。一方、最低年収中央値に入る募集年収は550万~300万であった。
定性的な決定者・決定求人内容の特徴を見ると、社内SEあるいはSEのリーダークラスで、経験者は、20代後半~40代前半で600万~799万であった。
この調査方法と結果から、自らが望む仕事と得たい収入を考える際は、生活圏内・通勤圏内における複数の募集企業、募集職種の上限報酬と下限報酬を精査し、「相場」感を自ら養うことが肝要であると思われる。
さらにいえば、得たい収入を獲得するための仕事に対する必要要件もあわせて自己点検することで、より理想的な生活と収入に近づけると思われる。
【引用・参考文献】
・「令和2年転職者実態調査の概況」厚生労働省(2021)
・「転職賃金相場2020」一般社団法人人材サービス産業協議会(2020)
—全ての働く人のためのチャット仕事悩み相談